債権回収の現場:過払い金問題、生き残りをかけた業者のあの手この手

2010年代を前後して弁護士や司法書士の事務所のCMをメディアで見かけることが多くなってきました。それまで弁護士の先生と漠然と込み入ったトラブル(例えば離婚問題や相続問題など)でお世話になるイメージが強く、あまりCMで法律事務所の存在を知ることはなかったのではないでしょうか。

しかし、『過払い金』というワードが市民権を得た2010年から、この認識は変わってしまったようです。その頃から、過払請求を前面に出した大手法律事務所のCMが、それまで喧伝されていた消費者金融のそれに取って代わったといっても過言ではありません。

「過払い」とは?

この『過払い』という言葉を改めて確認しておきましょう。過払いとは貸金業者へ払いすぎたお金について返還を求める手続きのことを言います。

今から10年程前まではキャッシングなどの借り入れ利息は最大29.2%まで認められていました。ただし、これは出資法という法律で認められた利率です。実は利率に関する法律はもう一つあり、それが利息制限法と呼ばれるものです。

こちらでは最大20%までの利率しか認められていませんでした。その二つの法律の利率の差は「グレーゾーン金利」と呼ばれ、その後の過払い問題のきっかけとなったのです。

なぜ大手事務所は宣伝に躍起なのか

では、なぜ法律事務所はこの過払請求を多額の広告費用を投下して集客を募ったのでしょうか。それまで暴利で貸し付け利益を貪っていた貸金業者を懲らしめるためでしょうか。それとも借金に悩み、苛まれてきた債務者を救うためでしょうか。そのどれもが一応は当てはまるでしょうが、事業的な見方をすれば、「収益性があるから」ではないでしょうか。

上記の「グレーゾーン金利」は、2006年まで解釈の余地があり、「出資法も利息制限法も2つとも法律であるから正しい」というダブルスタンダートがまかり通っていました。しかし、この問題も司法によりついに決着がつき、法律も改正されました。結果は利息制限法の定める年利20%が上限となったのです。

法律も改正され、これまでの29.2%もの金利は違法となったのです。それまでサラ金やクレジットの利用者は不況の影響もあってか、相当な利用者がいました。また借金苦の自殺や闇金問題など負の面は深刻さを増す一方でした。取り返せる請求(案件)が数多あり、語弊を恐れず言えば世論も見方にできる。利益と社会正義を両立させる最良の案件であったことは確かです。

苦しむ貸金業者のあの手この手…

さて、困ったのは貸金業者です。この過払い問題は現在進行形で業績に多大な影響を及ぼしています。10年ほど前までしつこいほど流れていたサラ金のCMも今でこそ増えつつありますが、2010年の前半にはほとんど見かけなくなりました。なにせ、それまで出資法で認められていた利率29.2%は否定され、利息の儲けが減りました。そして、過去の契約についても29.2%は適法でないと判断され、少ない儲けから更に過払い請求によってお金がでていくのです。法改正を境に栄華を極めた貸金業者は激減し、業界最大手の武富士が倒産するなど相当なショックが業界に走りました。

生き残りをかけた業者は必死です。あの手この手で生き残りを図りました。ある会社は銀行傘下に入ることで資金とブランドなど「安全」を手に入れました。ある会社は生き残るために「蛇蝎(だかつ)の如く」、なりふり構わず硬柔の手段を用いました。弁護士・司法書士に会社の窮状を説明し過払いの減額を申し込んだかと思えば、徹底的に裁判・法的な応酬で何とか過払いの支払を延ばすなど様々です。過払請求では裁判になることもありますが、裁判を長期化させるなど色々な方法があります。こうすることで妥協点を見出し、「時間がかかっても満額か、減額されても早めがよいか」と、相手に選択させる状況を作るのです。

少し脱線しますが、従来サラ金の社員のノルマと言えば「いくら回収したか」「いくら貸し付けたか」でした。これに「いくら過払を減額してもらったか」が追加されたのです。これは業者側の担当者としても意外と辛いもので、返して当然の過払い金の減額を弁護士・司法書士にお願いし、時には罵倒され、できなければ会社の上司に指導される…貸金業者の中だけを見れば、こんなに辛い仕事もないでしょう…

過払・貸金業者の今後

さて、最後に過払い問題と貸金業者・法律事務所の今後について少し触れておきます。まず、過払い問題ですが、今後時期は不明確ですが2017年ごろを境に確実に減少してきました。実は過払い請求にも時効が存在するのです。最後の取引(借り入れ・返済)から10年、これが時効期間です。大手事務者が過払の時効にふれたCMを打ち出していることからも終焉が見え始めました。

2020年の現在でも過払い問題は依然として存在してますが、貸金業者として今が最後の正念場でしょう。大手企業も過払対策に向けて最後の踏ん張りを見せています。過払い金(不当利息返還請求)のための費用を積み増しました。これが相当利益を圧迫するのですが、決着に向けて多額の費用を計上したのです。

「過払い」後の貸金業の業界はどうなっているのでしょうか。まず利益を圧迫する過払いはもう心配ありません。しかし、銀行のカードローンのCMが盛んになっている通り、優良なお客は銀行へ持っていかれる傾向にあります。しかし、指を加えてそれを見ている業界ではありません。銀行の審査を請け負うなど、持ちつ持たれつの関係をより強めていくことでしょう。

昔のような、イケイケドンドンはできなくなりますが、寄らば大樹、確実なビジネスモデルのもと、少なくなった業者同士で安定的な収益を上げていくのではないでしょうか。今後、過払い問題、サラ金の動向に注目が集まっています。

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